冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□121
 知らないメイが―― そこにいた。

 たかがケーキの箱が開いただけで、幸せな顔をしたのだ。

 そんなものに、あっさり自分が敗北したのを、カイトは知った。

 自分は、あそこまで手放しで喜ぶメイを作ることは出来ないのである。

 持って来たのはハルコだ。

 カイトの知らないメイを、おそらくたくさん知っているだろう女。

 ムカッ。

 ケーキやハルコのことを考えると、胃の裏側が熱くなった。

 ある一つの物事について、全員が全員同じように出来るワケではない。

 カイトだって、それをちゃんと分かっている。

 だから、自分が誰にも負けたくないと思う方面だけはひたすらに磨き上げ、それ以外の部分では怠惰の限りを尽くしてきた。

 メイという女がいる。

 カイトは、彼女を幸せにしたいと思っている。

 大事にしたいと。

 しかし、それは彼がいままで磨き上げてきた方面とは、全然違うところにあるものだった。

 それどころか、怠惰の限りをつくしてきたエリアに、間違いなく存在しているのだ。

 彼にとってメイを大事にするということは、未開のジャングルを分け入るようなものだった。

 そこには、見たこともないイヤなものが、山ほど横たわっているのである。

 しかし、そこはハルコにとっては庭だった。
 彼女の庭で、楽しそうにメイは歌う。

 カイトの庭ではない。

 ムカムカムカムカ。

 人の家の庭に踏み込み、そこにいるメイを引きずって、自分の庭に連れてきたかった。

 垣根の向こうにいるのを見せられるのは、腹が立ってしょうがない。

 しかし、その庭でないと彼女の笑顔は見られないような気がした。

 もどかしさに、苛立ちを隠せなくなる。

 それが、彼の眉間に深いシワを刻んだのだった。
< 562 / 911 >

この作品をシェア

pagetop