冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 その表情が、尚更メイを萎縮させる。

 ケーキを食べるのを戸惑っているのだ。

 彼の顔に、ちらりと視線が投げられた時、それがはっきり分かった。

「食え」

 そう言うしかなかった。

 でなければ、いつまでもメイは遠慮しそうだったのだ。

 ケーキくらい、カイトだって買うことは出来る。

 それどころか、財政的には山のように買ってくることも可能だ。

 しかし、いままで彼女は一度だってそういうものを欲しがったりしなかった。

 贅沢を言ってはいけないと、遠慮していたに違いない。

 女は甘いものが好きだ。

 それをカイトが知らなかったワケではないが、日常、彼が考える項目とはかけ離れていた。

 だから、気づかなかったのだ。

 彼女の好みが分かった今、じゃあ買ってきてやれるのか、ということになるのだが。

 じとっ、と背中にいやな汗が伝う。

 自分が、ケーキ屋とやらに入っているところを想像したのだ。

 今度は米とはワケが違う。
 米は簡単に買って来られたが、ケーキはそうはいかないのだ。

 あのケーキ屋なる建物に、自分が入っていって、しかもケーキを選ばなければならないのである。

 カイトは、その考えを頭から振り払った。

 プライドが、彼に足をかけて転ばそうとするのだ。

 クソッ。

 このプライドが、メイと自分を更に隔てている。

 それが、はっきりと分かった。

 崩せと言われても困るのだ。

 何しろ、そのプライドとやらは、彼が磨きをかけてきた船の舳先をかざるマーメイドのようなものなのだから。

 激しい葛藤をしているカイトに、ハルコの笑み混じりの声。
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