冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あら…女の子は、綺麗に着飾る義務があるもの。服を買ってあげるくらいの甲斐性は、カイト君にだって…ないのかしら?」

 最後は。

 腹の立つことに、首を傾げながらカイトを見るのだ。


 誰見てモノ言ってやがるー!!!!!


 ここにいるのは、カイトなのだ。

 肩書きを言えば、鋼南電気(株)の代表取締役社長なのである。

 甲斐性があったからこそ、彼女をあの場所から救い出すことが出来たのだ。

「あの…ホントに」

 なのに、その甲斐性を一番知らないのは、メイだ。

 何とかこの話を終結させようとするかのような態度で、2人の間に割って入る。

 ムッカー。

 そうなのだ。

 メイは、彼の甲斐性を知らないのである。

 服を買いに行くお金くらい、いつだってポンと出せるのだ。

 その事実を、今更ながらに自覚した。

 すると、余計にムカムカしてくる。

 カイトは立ち上がると、尻ポケットからサイフを抜いた。

 現金主義のカイトは、落とせば拾った人が喜びそうな額を、平気でサイフに入れている男である。

 その札の部分に手を突っ込んで、ひと掴み取り出した。

 バンとテーブルに置く。

 一緒に女の服を買いに、連れて行ってやることなど出来ない男でもあった。

 幸い、ここにはハルコがいる。

 このお節介女がいれば、いくらでも見立ててくれるだろう。

「あ…あのっ…」

 突然の出来事に目一杯戸惑った目が、自分を見上げてくる。

 お金の意味を把握しているのだが、それを受け入れられないという心とせめぎ合っている目だ。

 こうなると、カイトも居心地が死ぬほど悪くなる。

 このままここにいたら、彼女はこのお金を拒否するか、また1枚だけもらって残りを返しそうな気がしたのだ。

 その上。

 ハルコも、そこにいる。

 ポケットにサイフを戻しながら、カイトはお茶の時間のつきあいを断ることにした。

 言葉ではない。
 態度で。
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