冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□126
 いる―― と思っていた。

 一番よく出会う場所に、彼女はいるはずだった。

 何の根拠もない。

 部屋にいる可能性だってあるはずだ。

 なのにカイトは、いつもメイがそこにいるように思えていた。

 また、何か仕事をしているのではないだろうか。
 そんな予感で、彼は降りてきたのだ。

 いままで一番用のない場所だったダイニングや調理場に、彼女が来てから一体何度出入りしただろうか。

 自分でも信じられない事態だった。

 だが、そこがもぬけの殻だった時。

 首の後ろに冷たいものが走った。

 落ち着いて考えればよかったのだ。

 彼女は部屋にいて、何かしているのかもしれない、と。
 もしかしたら、ほかの場所にいるのだと。

 しかし、神経のパイプが、何かに強く踏まれていた。
 伝達されるべき情報が、いきなり遮断された状態になってしまったのだ。

 彼女がいない。

 その情報が、山ほど自分に送られてくる。

 狭いパイプの中にぎっしりとそれだけ詰まっていて、ほかの情報が流れないのだ。
 かろうじて、一つだけ別の情報がようやくやってきた。

 部屋。

 その一語だ。

 もう一つ、彼女がいる可能性の高い場所。

 それだけをひっ掴んで、慌ててダイニングを飛び出したのだった。

 そこで。

 彼女と激突した。

 ダイニングに向かって来ていたのだ。

 とっさに手を出していた。

 誰かなんて、一瞬で分かっていた。
 頭が認識するよりも、身体が分かっていたのだ。

 勢いに引きずられそうになる身体を、とっさにダイニングの入り口に腕を引っかけて止めたので、彼女に怪我をさせる、などという最悪の事態は免れたのである。

 ほっと息をついた。

 驚きと混乱で心臓がばくばくしていて、ただの安堵のため息で終わらなかったが。
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