冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あれ?

 また、食い違った。

 ネクタイを、毎朝彼女は締めている。

 帰ってきた時は、ほんとにぶら下げてる状態になっているが、それは仕事が終わったからだろうと思っていた。

 ネクタイを締めるだけで不機嫌になる―― そういう光景は見たこともなかった

 そんな…。

「ああ、まったくもう…気まぐれなのは、相変わらずねぇ」

 ハルコは、一生懸命考えていたようだが、最後はきまぐれで片づけてしまった。

 そうよね、きまぐれ…よね。

 ハルコが分からない答えを、彼女に分かるはずもない。

 言われる通りの形で納得した。

 でも、彼の背広姿は好きなので―― 嬉しい気まぐれである。

 カイトの背広は、毎朝毎夕見ていた。

 着こなすことに、まったく興味を持っていないのは分かるけれども、あの姿は『働いてる男』という匂いをバンバン伝えてきて、メイをどきどきさせるのだ。

 カイトは、そんなに背も高くはないし、体格がいいワケでもない。

 しかし、あの姿のカイトは、頼りがいがありそうで、男っぽい骨組みを感じさせられた。

「何があったのかしら…」

 ハルコは、ちらっと彼女を見てくるが、それに対する答えを持っているハズがない。

「さぁ…? 分かりません」

 メイも首を傾げた。

 カイトと背広。

 カイトとネクタイ。

 xとyをうまく計算すれば、ちゃんとした翻訳が出来そうなのに―― 何か、条件が足りないような気がした。
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