冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「うめぇ…」

 ほっ。

 今日ほど、その言葉が聞けて安堵したことはなかっただろう。

 嬉しいというよりも、本当にほっとしたのだ。

 カイトがラザニアを知っているかどうかは定かではないが、とりあえず、それだと信じてもらっているのなら、更に彼女はほっと出来る。

 オーブンから出てきて、そんなにたっていないラザニアもどきは、とても熱い。

 だから、彼は食べるのに苦労しているようだった。

 いつもみたいに、ばくばくという感じではなく―― 結果、ゆっくりとした夕食になって、彼女を密かに喜ばせたのだ。

 アツアツの料理を用意すれば、ゆっくりとした夕食時間になる。

 嬉しくなって、つい心のメモに書き留めてしまった。

 余り頻繁に使うワザになってはいけないだろうが、どうしてもこっそり一緒にいたい時には有効だろう。

 じーっと見ているメイに気づいたのか。
 カイトが顔を上げた。

 彼女が、まだ食事に手をつけていないのに気づいたようだ。

 慌ててフォークを取って、ラザニアもどきに突き刺す。
 中から出てきた失敗スパゲティと目が合って、こっそり苦笑した。

 カイトは、まったくその苦笑には気づいていないようである。

 再び、黙々と熱いカタマリと格闘している。

 ただ、彼はフォークでスパゲティの部分をうまく捕まえられなくて難儀しているようだ。

 眉を顰めて、からめ取ろうとしたり、突き刺そうとしたり―― イライラしているようにも見えた。

 ラザニアもどき用に短く切ったので、うまくフォークにからめることができないのだ。

 あっ。

 その光景には見覚えがあった。

 デ・ジャヴというヤツだ。

 記憶をさかのぼったら、すぐに思い当たる。

 彼女の父親も、パスタ関係をフォークで食べるのが苦手だったのだ。

 スパゲティになると、途端うまく扱えなくなって。

 ああ…。

 すごく懐かしい気持ちと、嬉しい気持ちが交錯する。
< 595 / 911 >

この作品をシェア

pagetop