冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□129
 クソッ。

 フォーク一つうまく扱えない自分に、イライラする。
 それをメイが見ていると、更にイライラする。

 おまけに、箸まで持ってこられるほど気を使われて、イライラが最高潮に達する。

 フォークくれぇ!

 こんなもの、簡単に扱えるのだ。
 突き刺したり、乗せたり、引っかけたり、単純な食事道具でしかない。

 年寄りならともかく、20代のカイトには楽勝―― な、ハズだったのに。

 つるっ。

 ぽろっ。

 フォークが、麺にかかったや否や、彼の希望をことごとく裏切る。

 その度に、ムカムカした。

 決して、メイが作ったこの料理について不満に思ったワケではない。

 あくまで、うまく扱えない自分が不満だっただけなのだ。

 ここで、彼女の好意で持ち出された箸を使うということは、『私はフォークすら、うまく扱えない不器用者です』と宣言するようなものである。

 そんなことを、メイの前で認められるハズもなかった。

 このくれぇ。

 カシャン。

 このくれぇ。

 カシャン。

 このく――

 食べ終わる頃には、あんなに熱かった料理はすっかり冷めてしまった。

 ぶっすー、とひどい顔のまま席を立つ。

 せっかくの料理なのに、全然味どころではなかったのだ。

 最初の一口は、まだスパゲティの部分ではなく、上のソース部分だけだったので『うめぇ』が言えた。

 しかし、もうその後は、とにかくフォークに絡まったら口の中に突っ込むという、こなす作業になってしまったのだ。

 置き去りにされた綺麗なままの箸を、カイトは密かに睨むと、ようやく『ごっそさん』が言えたのである。

 その後は。

 心配そうな、複雑そうな表情をしているメイから、逃げなければならなかった。
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