冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 共有している記憶が少なすぎる。

 交わしている言葉も、思いも少なすぎる。

 しかし、自分をうまく表現できないカイトには、物凄く時間がかかりそうな話だった。

 少しづつ馴染んでいくしかないのだ。

 すべて、一足飛びに手に入れられるというワケではない。

 確かに彼は、仕事では一足飛びだった。
 人と比べたら、すごい速度でいまの地位を手に入れた。

 人と付き合うことは、そういうワケにはいかない。

 それが、頭の端では分かってはいるけれども、歯がゆいのだ。

 ゆっくりとコーヒーを飲む。

 ちらっとメイを見る。

 両手で持っているカップは、昨夜から変わっていた。
 あのハルコの発言のせいである。

 カイトのものだったというマグカップはなく、代わりに客用のティーカップだ。

 別に。

 昨日も思ったが、やはり今日も不満に思う。

 別に、あれでいいだろ。

 視線を横にそらしながら、カイトは不満をよぎらせた。

 余計なことを言ったハルコを憎んでしまうくらいだ。

 要するに。

 あのカップを使って欲しかったのである。

 同じような一対のカップ。飲んだ記憶はないとはいえ、カイトのカップを、彼女に使って欲しかった。

 彼のカップは、前のままだ。
 シュウの分と言われているカップである。

 どうして、カイトのカップが彼に戻ってこなかったかというと―― 多分、メイが使ってしまったからだろう。

 彼女が使ったカップを、翌日からあからさまにカイトのものとして使うのはイヤだったのだろう。
< 599 / 911 >

この作品をシェア

pagetop