冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
「名前……?」
彼女の赤すぎる唇が、それを繰り返す。
カイトのすぐ側で。
吸い込まれそうに、なった。
カイトは、もっとその目をのぞき込みたくなったのだ。
背中が、彼女の方に近づこうと傾く。
あと3.7センチ。
「きゃあ!!!」
しかし、風船は弾けた。
彼女が悲鳴をあげたからだ。
ビクッとカイトは身体を引いてしまった。
自分の行動に悲鳴をあげられたと思ったのだ。
しかし、そうではなかった。
「ああ……すみません!」
彼女は、グラスにウィスキーの瓶を傾けたままだったのである。
溢れだしているのに、いま気づいたのだ。
慌てて、オシボリで拭き始める。
見れば、カイトのズボンの裾にもかかっていて。
床に膝をついて彼女が拭こうとする。
――!
何故か、それが無性にイヤだった。
彼女がそういうことをする姿を見たくなかったのだ。
「別に構わねーから……」
カイトは、最初はそっけなく言った。
「でもでも……ああ、本当にすみません……」
彼女はまだ床にいて。
オロオロしながら拭こうとするのだ。
「すんな! っつってんだろ!」
カイトは、彼女のむきだしの二の腕を掴むと怒鳴りながら引っ張り上げ、イスにどすんと座らせたのである。
スプリングで、一瞬跳ねる黒い髪。
オシボリを持ったまま、彼女はその席で硬直した。
それもそうだ、カイトは怒鳴ってしまったのだから。
チッ。
どうにも、調子が狂っている自分に苛立つ。
「お客様……何かうちのホステスが粗相でも?」
さっきの彼の怒鳴りに飛んできたウェイターが、めざとく惨状を確認する。
溢れたグラス、テーブル。
「申し訳ありません、お客様! すぐに別のホステスを呼びますので!」
そうして、硬直したままの彼女を連れて行こうとした。
その手を――カイトは、叩いた。
「他はいらねー……こいつでいいんだ」
うせろ。
とまでは言わなかったが、カイトの目は、しっかりそれを伝えていた。
「名前……?」
彼女の赤すぎる唇が、それを繰り返す。
カイトのすぐ側で。
吸い込まれそうに、なった。
カイトは、もっとその目をのぞき込みたくなったのだ。
背中が、彼女の方に近づこうと傾く。
あと3.7センチ。
「きゃあ!!!」
しかし、風船は弾けた。
彼女が悲鳴をあげたからだ。
ビクッとカイトは身体を引いてしまった。
自分の行動に悲鳴をあげられたと思ったのだ。
しかし、そうではなかった。
「ああ……すみません!」
彼女は、グラスにウィスキーの瓶を傾けたままだったのである。
溢れだしているのに、いま気づいたのだ。
慌てて、オシボリで拭き始める。
見れば、カイトのズボンの裾にもかかっていて。
床に膝をついて彼女が拭こうとする。
――!
何故か、それが無性にイヤだった。
彼女がそういうことをする姿を見たくなかったのだ。
「別に構わねーから……」
カイトは、最初はそっけなく言った。
「でもでも……ああ、本当にすみません……」
彼女はまだ床にいて。
オロオロしながら拭こうとするのだ。
「すんな! っつってんだろ!」
カイトは、彼女のむきだしの二の腕を掴むと怒鳴りながら引っ張り上げ、イスにどすんと座らせたのである。
スプリングで、一瞬跳ねる黒い髪。
オシボリを持ったまま、彼女はその席で硬直した。
それもそうだ、カイトは怒鳴ってしまったのだから。
チッ。
どうにも、調子が狂っている自分に苛立つ。
「お客様……何かうちのホステスが粗相でも?」
さっきの彼の怒鳴りに飛んできたウェイターが、めざとく惨状を確認する。
溢れたグラス、テーブル。
「申し訳ありません、お客様! すぐに別のホステスを呼びますので!」
そうして、硬直したままの彼女を連れて行こうとした。
その手を――カイトは、叩いた。
「他はいらねー……こいつでいいんだ」
うせろ。
とまでは言わなかったが、カイトの目は、しっかりそれを伝えていた。