冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 もしも、彼女のカップを自分が使ったら。

 カァッ。

 中学生みたいな感情が暴走した。

 たかが、カップだぞ!

 自分の暴走にタックルをかけて止める。
 でないと、まるでバカみたいだった。

 同じカップを共有したくらいで、意識するところなどないはずである。

 ぐいっ。

 思わず、勢いよくコーヒーを飲んでしまった。

 あっという間に、底が見えてしまった。

 このままでは、あと一口で飲みきってしまいそうだ。

 クソッ。

 もっとカップが大きければいいのだ。
 もっとコーヒーが入っていればいいのである。

 そうすれば、もう少しだけ一緒にいられるのに。

 いつだって持て余すその感情に直面するたびに、彼は戸惑う、暴れる。

 けれども、プライドを押さえつけるほどの力が、この時間にはあった。

 あと一口を、できる限り引き延ばす。

 冷め切ったコーヒーは、苦いばかりだ。

 メイが、カタンとトレイの上にカップを戻した。

 終わりの合図だ。

 カイトは目を閉じて、最後の一口を飲む。

 カタン。

 乱暴になりすぎないように、トレイの上に置いた。

 立ち上がる。

 トレイを持って出ていく身体。

「おやすみなさい…」

 パタン。


 おやすみ―― まだ、その言葉は言えないまま。
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