冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●131
 さて。

 メイは、今夜の鍋料理のための買い物に出ることにした。
 生活費の中から、必要な額だけを持ち出す。

 あの17万は、置き去りだ。

 あくまで、料理の買い物がメインであって、洋服はちらっと眺めるだけなのである。

 洋服は、サブのサブのサブのサブの話だ。

 サブのサブのサブの――

 じーっっっっ。

 メイは、無意識にウィンドウを覗き込んでいた。

 大通りを駅の方に歩くと、ビルだのブティックだのが立ち並んでいるのだ。

 夢見る服の話なら、こんな風に見たりはしない。

 しかし、今回はかなり具体性のある服の話なのだ。
 その具体性が、彼女をへばりつかせていたのである。

 いけない。

 はっと気づいて、ウィンドウの前を立ち去る。

 このままでは、鍋の買い物が終わるのが、いつになるか分かったものではない。

 うっかり何か買い忘れて帰りました、ということは避けたかった。

 洋服にうつつを抜かしての失敗は、あのラザニアもどきだけで十分である。

 そうして、白菜にしらたきにエノキに豆腐に―― ナベに必要な材料と、明日からの食事のための材料も買い出した。

 メイはにっこりする。

 とにかく、白菜が重かった。

 2人で丸ごとは使わないだろうが、余った分はお浸しにでも一夜漬けにでもすることも出来るし、お吸い物に使ってもいいかもしれない。

 こんな重い荷物を持ったまま、ゆっくり洋服を眺める気にはならないだろう、と自分への枷にしたのだ。

 それに、袋からはネギも顔を覗かせている。

 この姿で、ブティックに入る度胸など、彼女にはないのだ。

 これで大丈夫。

 帰りだした――のだが、身体はその重みなんかに負けたりはしなかった。

 ついつい、ブティックの前では歩きが遅くなるのだ。
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