冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 とりあえず、ドアを閉めて元の服に戻る。

 どうやら、本当に今日はウィンドウショッピングで終わりそうな予感があった。

 あの様子では、この店にもうメイに似合いそうな服はないのだろう。

 でなければ、わざわざ元の服に着替えさせるはずがない。

 ちょっとホッとしながら、彼女は再びヒツジになった。

「じゃあ、行ってくるよ」

 え?

 気づいたら、しっかりメイの手首は掴まれていた。

「いってらっしゃい」

 店内スタッフが見送ってくれる。

 どうして?

 メイは、片手に白菜、もう片手をトウセイに掴まれたまま、どこかに連れて行かれようとするのだ。

 店を出る。

「あの!」

 慌てて呼び止めると、肩越しでちらっとこっちを見た。

 何が聞きたいのかは察知しているのだろう、斜め上を見ながら、とぼけた調子でこう言った。

「向こうのビルに2号店があるんだよ。そっちに確か…まあ、売れていなければね」

 そこに、メイを連れて行こうというのである。

 白菜の重みを持っている彼女の事情など、まったく我関せずだ。
 普通の男なら、その荷物を持ってくれそうなものなのに。

「ホントに…今日はもう…帰らないと」

 このまま引きずり回されたら、帰るのが何時になるか分からない。

 まだ昼過ぎの時間とは言え、今日は結構遠出をしてきているのだ。

 洋服を見たかった心に負けて、ついつい遠出になってしまったのだが。

 ぴたっと、トウセイは足を止めた。

「なーんだ。本気で服を探していたワケじゃないんだ…」

 途端、興味を失ったような気配がした。

「あんなに真剣な目で、僕の服を見ていたから…よっぽど大切なことのために服を選んでいるのかと思ったら」

 手が離される。

 うっ。

 そう言われると痛い。
< 612 / 911 >

この作品をシェア

pagetop