冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「マネキンって、ラダって言うんですか?」

 脱がせた服を持ってきたトウセイに、素朴な疑問をぶつけてみた。

 すると、彼は眉を上げる。

「あのマネキンが、ラダって言うんだよ…ラディウス・エリューカってね。その隣のは、セーゼ・クランベルール」

 まるで当たり前なことのように、マネキンを呼んだ。

 この人。

 メイは、パチクリと目を瞬かせた。

 この人…マネキンに、名前をつけてるんだわ。

 頭の中に、マネキンに話しかけながら、着せ替えをするトウセイの姿が浮かんで、思わず笑ってしまいそうになる。ぐっとこらえた。

 芸術家には変わり者が多いというが、ご多分にももれず、彼もそのクチのようだ。

 そう言えば、メイも子供の頃、お人形さんには全部名前をつけてちゃんと覚えていた。

 そして、おままごとや着せ替えをして育ってきたのだ。

「ラダさんとセーゼさんって言うんですね…」

 思い出してしまって、ついつい懐かしい目でマネキンを見てしまった。
 彼女の持っていた人形は、あんなには大きくなかったけれども。

 マネキンの名前を呼んだ後、ふっとトウセイを見ると、彼は怒っているような顔になっていた。

 ああ! バカにしてないんです!

 慌てて、その旨を伝えようとしたが、トウセイの方が速かった。

「初対面の人に、ラダって言われるのは気に入らないね。彼女の正式な名前『ラディウス』って呼んでくれないか?」

 しかし―― 論点は、ズレていた。
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