冬うらら~猫と起爆スイッチ~
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 ラダは、トウセイが知る限りで言えば、一番美人のマネキンだった。

 マネキンに、顔はいらない。

 それが、彼の主義である。

 その美しい身体のフォルムと、顔がないのに表情があるように見える輪郭と、よく似合う服を着ていればいいのだ。

 そのラダを、いつまでも裸にしておくワケにはいかない。

 ネギを持った変な女に試着してくるよう服を渡した後、トウセイは、ラダのために服を選び始めた。

 しかし。

 本当に変な女である。

 試着室のドアの方をちらりと見る。

 普通の女には、トウセイはちっとも興味がない。

 妙にブランドとかを知ったかぶりする女は、特にお断りだった。

 そこにいるのは、自分の着ている服のブランドすら知らない女だった。

 名前は聞いていないが、黒い頭と茶色の目。

 どこにでもいそうな、色の配色だ。

 そして、赤い服に見とれていたのだ。

 人間、自分にない色を欲しがるとは言うが、トウセイの服を着てカーニバルになられるのはゴメンだった。

 特に、あの赤ほど彼女に似合わない赤はないだろう。

 予算を聞いた時も妙だった。

 10万からだんだん下がってきたのだ。

 一番最初に、10万なんて言葉を出せるのが普通じゃない。

 まあ、金持ちの女ならまだしも、ネギを持った女の口から出てくるとは思ってもみなかった。

 そうだ。

 あのネギがいけなかったのである。

 ブランドの服を着て、ネギの入ったビニールを下げて、彼の服を見ていたのだ。

 だから、声をかけてしまったのである。

 変なモノに対しては、何よりもアンテナの働くトウセイだった。

 クリスマスのパーティね。

 ここに来るまでの道のりで、歩きながら話を聞いてみれば―― そのために服を探しているらしい。
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