冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 たかがクリスマスパーティである。

 しかし、彼女にとっては、どうやら『たかが』ではないようだ。

 面白そうな匂いがプンプンする。

 大体、あの女は何者なのか。

 トウセイは、服装や態度や言葉から、その人間がどういう環境で生きてきたかは、大体分かるようになっていた。

 職業柄、のせいかもしれないが。

 彼の見立てでは、あの女は、ごくごく普通の女だ。

 どちらかというとゼイタクをしてきていない人間で、ブランドとは縁もなかったようである。

 その女が、ブランドの服を着て、クリスマスパーティの服を探しているのだ。

 まあ、僕には関係はないけどね。

 しかし、興味は長くは続かなかった。

 トウセイは猫である。

 スズメを狙っている一瞬は、確かに集中しているのだけれども、蝶々がひらっとしただけで、もうスズメを狙っていたことを忘れるのだ。

 彼の心は、ラダの服を選ぶ方に移り変わっていた。

 これだね。

 そう思って、ハンガーから服を抜いた時―― 試着室のドアが開いた。

 おそるおそる、という感じである。

 そこで彼女のことを思い出し、ラダの服を持ったまま見に行くことにした。

「あの…」

 また彼にヒドイことでも言われると思っているのだろう。心配そうな声が飛んでくる。

 僕はオニじゃないよ。
 目を半開きにする。

 こうなると、ホントにヒドイことを言ってやりたくなるもので、トウセイはわざとアラを探すような目で、彼女を不躾に眺め回した。

 なのに。

 お手上げである。

 彼が似合うと思った予想は、ドンピシャで。

 ケチのつけようがなかったのだ。見立てに狂いはなかったというところか。
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