冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「残念だね…」

 しかし、こんな言い方をする男である。

「え?」

 心配そうな顔だ。

 どこがおかしいのか、自分の姿をもう一度眺め回す女がいた。

 自分で似合っているかどうかくらい、分かるものだろうけどね。

 肩をそびやかしながら、トウセイは少しだけ親切になってやることにした。

「残念ながら、合格だね…僕としては、もうちょっとイヤミを言ってあげたかったんだけど」

 やれやれ。

 これで、彼女はクリスマスパーティとやらで―― 少なくとも、『服』はほめてもらうことが出来るだろう。

 本人がほめてもらえるかどうかは、彼女次第だから、トウセイの関知するところではない。

「ホントですか?」

 あのトウセイの言葉で、素直に喜べるのがまた変だった。

 嬉しそうに笑って、もう一度試着室の鏡を見る。

 その顔が、ぱっと曇ったのが試着室の鏡に映った。

 トウセイの見立てに、何か不満でもあるのだろうか。

「あ、あの…」

 振り返って、言いにくそうな女の顔とぶつかる。

 トウセイは、不満なら聞かないよ、というオーラで態度で望んだ。

 これ以上、彼女に似合う服など見つからないからだ。

「あの…後で、お金を持ってきた時に、この服を買っていいでしょうか?」

 今日は、買うことになるとは思ってなくて、お金持ってきてないんです。

 ダメでしょうか?

 なるほどね。

 トウセイは、試着室の入口に置いてあるネギを見た。

 こっち買い物がメインで、服を買うことになるとは思っていなかったようだ。
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