冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「分かったよ…それじゃあ、取り置きしておいてあげるから…名前と住所と電話番号を書いていけば」

 マヌカンを呼び止めて、お客様台帳を取ってこさせる。

 しかし、またさっと女の顔が陰った。

 この上、何があるって言うのさ。

 一体、自分の言った言葉の何が不満なのか、さっぱり分からないトウセイだった。

「あ、あの…」

 そして、また『あの』が始まった。

 人の顔色を伺うような声は、トウセイは嫌いだった。

 そんな彼女の前に、台帳とペンが差し出される。

 彼は、黙って見ていた。

「こちらの方に、お名前と電話番号を、下に住所をお願い致します」

 マヌカンも、彼女の戸惑いには無頓着な事務的な笑顔で台帳を差し出す。

 女の目が、台帳を見たあとトウセイを見た。

「あの…名前だけじゃダメでしょうか?」

 そして、妙なことを言い出すのだ。

 トウセイは眉を上げた。

「住所と電話番号も書けないのかい? 一体、どこのお嬢様だい」

 イヤミを炸裂させながら、トウセイは困惑している彼女の方へと近付いて行った。

「違うんです…その…」

 物凄く言いにくそうな声で、うつむいてしまう。

 まさか家出娘とか言うのじゃないだろう。

 それなら、ネギを買うハズがない。コンビニ弁当が関の山だ。

「あの…その…私…住所と電話番号…その…知らないんです」

 困り果てた声で言った。

 やっぱり、絶対―― 変だった。
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