冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 シーン。

 家中静まり返っているのが分かった。

 人の気配らしきものは何もなく、おそらくこの屋敷には、自分一人しかいないだろうということを、メイは感じた。

 ただカチカチと、小さな時計の音が聞こえる。

 それ以外は、何の音も聞こえなかった。

 壊れた頭が、だんだん同じように静かになってくる。

 そうして、ベッドから降り立った。

 カチカチカチカチ。

 頭を巡らせて時計を探す。

 机の上。

 放置されたままのパソコンの側に、無造作にあった。

 カイトという男は――時計には興味がないのだろうか。

 まるで、何とか記念で配られるような、安っぽいアナログの置き時計だったのだ。

 広い部屋にそぐわない。

 この部屋に、時計が一つだけというのも変な感じだ。

 かけ時計も目覚まし時計もないのである。
 どうやって、起きているのか不思議だった。

 しかし、彼女が起きた時のことを考えたら、ちょっと納得出来た。

 もう一人の、のっぽの男である。
 彼が起こしに来ているのだ。

 けれども、どう推理しても、所詮推理で終わりだった。

 メイが知っていることは、彼が『カイト』という名前であるということだけなのである。

 他は何の説明もされなかった。

 その言葉だけを持たされても、彼女はどうしたらいいのか分からずに、ウロウロするだけだ。

 ここにいろ、と命令された。

 いるより他にはない。

 彼女には、衣服もお金もないのだ。

 外に出ていけるハズがなかった。

 いや、衣服だけならこの部屋にもある。彼のものだ。

 勝手に着て逃げようと思えば、逃げることが出来るだろう。

 カイトだって、彼女のことは『メイ』という名前しか知らないハズなのだから。

 けれど。

 そんなことを、彼女が出来るハズがなかった。
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