冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●
どうしよう。
ビルの壁沿いの、ちょっと高くなっている段に腰を下ろして、メイは途方に暮れた。
さっきから、同じところばかりをグルグル回っているような気がしたのだ。
もう、足が痛くてしょうがなかった。
トウセイのいたファッションビルの名前も覚えていない。
一号店の方に取り置きしておいてくれると言ったので、覚える必要がなかったのだ。
そっちは、カイトの家から歩いてきたら、すぐ分かるところにあったので。
お店の名前…何だったかなぁ。
英語だかフランス語だか、とにかく横文字の筆記体で書いてある店だったのは覚えている。
けれども、それを彼女の頭は読解することを拒否したのだ。
一度。
派出所に入ろうかと思ったのだ。道を聞こうと思って。
でも。
結局、できなかった。
トウセイの店でも言ったではないか。
帰るべき家の、住所も電話番号すらも自分は知らないのだと。
ハルコの家の電話番号も分からない。
誰にも連絡できない状態だった。
住所が分からなければ、タクシーにも乗れないのである。
思えば、自分は何と頼りない存在だったのか。
日が暮れ始める。
ビルにある大きな時計を見ると、もうすぐ5時だ。
まだカイトは仕事中だろう。
仕事!
メイは立ち上がった。
思い出したのだ。
カイトの働いている会社名は知っているのである。
鋼南電気。
これさえ知っていれば、電話帳で電話番号を調べることが出来るではないか。
そうすれば、きっと彼は呆れるだろうけれども、彼女はあの家に帰ることが出来るのである。
洋服にうつつを抜かした失敗で、確かにまた自己嫌悪の嵐だった。
でも、いまはそれよりも不安が先に立っている。
とにかく、自己嫌悪に落ちるにしても、あの家まで帰り着かなければならないのだ。
公衆電話。
メイはキョロキョロした。
そこで電話帳さえあれば―― 彼女は帰れるのだ。
痛い足をそのままに、メイはしっかりと買い物袋をさげたまま、目標に向かって歩き出したのだった。
どうしよう。
ビルの壁沿いの、ちょっと高くなっている段に腰を下ろして、メイは途方に暮れた。
さっきから、同じところばかりをグルグル回っているような気がしたのだ。
もう、足が痛くてしょうがなかった。
トウセイのいたファッションビルの名前も覚えていない。
一号店の方に取り置きしておいてくれると言ったので、覚える必要がなかったのだ。
そっちは、カイトの家から歩いてきたら、すぐ分かるところにあったので。
お店の名前…何だったかなぁ。
英語だかフランス語だか、とにかく横文字の筆記体で書いてある店だったのは覚えている。
けれども、それを彼女の頭は読解することを拒否したのだ。
一度。
派出所に入ろうかと思ったのだ。道を聞こうと思って。
でも。
結局、できなかった。
トウセイの店でも言ったではないか。
帰るべき家の、住所も電話番号すらも自分は知らないのだと。
ハルコの家の電話番号も分からない。
誰にも連絡できない状態だった。
住所が分からなければ、タクシーにも乗れないのである。
思えば、自分は何と頼りない存在だったのか。
日が暮れ始める。
ビルにある大きな時計を見ると、もうすぐ5時だ。
まだカイトは仕事中だろう。
仕事!
メイは立ち上がった。
思い出したのだ。
カイトの働いている会社名は知っているのである。
鋼南電気。
これさえ知っていれば、電話帳で電話番号を調べることが出来るではないか。
そうすれば、きっと彼は呆れるだろうけれども、彼女はあの家に帰ることが出来るのである。
洋服にうつつを抜かした失敗で、確かにまた自己嫌悪の嵐だった。
でも、いまはそれよりも不安が先に立っている。
とにかく、自己嫌悪に落ちるにしても、あの家まで帰り着かなければならないのだ。
公衆電話。
メイはキョロキョロした。
そこで電話帳さえあれば―― 彼女は帰れるのだ。
痛い足をそのままに、メイはしっかりと買い物袋をさげたまま、目標に向かって歩き出したのだった。