冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 結局、ライセンスの話だった。

 社長室を出ていく、長身長髪のスーツ2人組を見送りながら、カイトはふーっと吐息をついた。

 シュウが、隣で書類を整えている。

 滞在時間は、一時間程度というところか。

 時計を見ると5時45分を回ったところだった。
 もうすぐ、就業時間が終わりである。

 最後の辺りは、実はカイトはまた落ち着かない病気にかかっていた。
 まさか、6時過ぎまで彼らが居座るのではないかと思ったからだ。

 もしそうなら、帰るのが遅くなってしまう。

 結果的には、無駄な心配に終わった。

「アポなしたぁ珍しいぜ…」

 カイトは、席から立ち上がりながら言った。

「何でもダークネスの社長が、いきなり訪問を思い立たれたらしいですよ…裏の方で、私にお詫びを頂きました」

 シュウが、大事な契約前の覚え書き書類を一枚回してくる。

 鋼南電気の持っているソフトの、二次的なライセンス取得に関する覚え書きだ。

 販売するソフトの傾向が違うということで、お互いの利害が一致したとのである。

 あと15分。

 ちらと覚え書きを見た後、シュウに突っ返した。

 そして、また時計を見てしまう。

 やはり、あと15分。さっき見たのとまったく変わっていない。

 おかしい。

 彼の体内時計では、確かに時間がたっているハズなのに。

「これを正式な契約書類にする手続きをしておきます…が、それは明日になりますね。私は、これから代理店の方に顔を出しますので…お疲れさまでした」

 そんなカイトの心の流れなど、シュウが知るはずもない。

 そのまま一礼すると、とっとと社長室を出ていってしまった。

 どうすっか。

 あと15分なのに、また開発室に行くのは何だかマヌケである。

 しかし、このまま社長室でブラブラしているのも変なカンジだ。

 あと10分までは―― 我慢した。

 が。

 もう、我慢できなかった。

 カイトは、上着をひっ掴んで社長室を出た。
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