冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あ、社長!」

 いきなり出てきた彼を、秘書が呼び止めようとする。

 しかし、彼は聞いちゃいなかった。

 そのまま、すごい歩幅で突進すると、ちょうど来ていたエレベーターに飛び乗ったのである。

 開発室の階では、下りなかった。

 そのまま一気に駐車場の地下まで下りる。

「あ、今日はお早いですね…」

 などという守衛から車のカギをひったくると、カイトは乗り込んだ。

 通勤を車にしてしまったせいで、バイクよりも余計に時間がかかるようになった。

 それすら忌々しい。

 どうあっても、渋滞には勝てないのだ。

 既に真っ暗な夜道を、カイトは急いで車を走らせた。

 しかし、信号無視はできなくて―― しょうがなく、車を停止させる。

 駅前だった。

 クリスマスなど、まだ少し先の話だというのに、既に浮かれ騒いでいるカンジがする。

 ケーキ屋のウィンドウには、白いスプレーで雪の結晶だの、メリー何とかの英語が飛び交っている。

 ケーキ。

 その単語に止まって、慌ててカイトは頭をうち振った。もう、窓の外は見ないようにする。

 でないと、自分がとんでもないことをしてしまいそうな気がしたのだ。

 ケーキどころの話ではなかった。

 そのクリスマスとやらの日には、あのソウマ夫婦のところのパーティに出ると言ってしまったのである。

 絶対、どっかで断ってやる。

 想像するだけで顔が歪んでしまって。

 青信号になった途端、カイトはそれを振り切るためにロケットスタートした。

 はやる心を抑えて、ようやく自宅に帰り着く。

 車をガレージに頭から突っ込んで、彼は車から降りた。

 途端に、凍ったような空気がカイトの身体を捕まえる。

 暖房のよく効いた車から、降りてしまったせいである。
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