冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□136
 いねぇ!!!!

 ダイニングも真っ暗、台所も真っ暗。

 どこもかしこも外気と同じ温度で、人がいた気配がない。

 いろんなものにガンガンぶつかりながら、カイトは家中走り回って、片っ端から彼女の姿を探した。

 メイの部屋の前に立った時は、さすがに一瞬ためらったけれども、もしかしたら、この部屋の中で彼女は倒れているかもしれないのだ。

 カイトは、バタン、とドアを開けた。

 でも―― いなかった。

 風呂場も、トイレもクローゼットの中さえも、全部開け放したというのに、メイの姿はどこにもなかった。

 ただ、ベッドの上にキチンとたたまれているパジャマが、彼女がちゃんとこの家に存在していたのだという証明を残しているに過ぎなかった。

 ぐらっと、した。

 よろけて、壁に手をつく。

 頭の中で、ずっとどこか恐れていた。

 その冷たい手が、彼に触る。

 けれども、まだどこか信じていなかった。

 そんなハズはねぇ、と―― 言葉という盾で、忍びよるそのたくさんの冷たい手を払いのけようとしたのだ。

 そんなハズはねぇ!

 カイトは、頭をうち振る。

 彼女は、ナベをすると言ったではないか。

 今夜早く帰ってくるか、カイトに確認をしたではないか。

 洋服だって全部、このクローゼットの中に入っている。

 きっと、きっと、買い忘れか何かあって、ちょっとでかけているのだ。きっと、そうなのだ。

 けれども、それはウソだと分かっていた。

 こんな暗くなって、ちょっと出かけるくらいなら、外の電気くらいつけていく。

 台所では、夕食の用意をした気配もない。

 ただ、どこから探し出したのか、土鍋だけが調理場の台の上に乗せられていただけだ。

 いや。

 その鍋が置いてあったからこそ、カイトは一抹の希望にすがることが出来たのである。

 もしかしたら、と。

 カイトは、ポケットに突っ込んでいたケイタイを取る。

 絡まりそうになる指で、アドレス帳を呼び出した。
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