冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、借金を返してくれた人である。

 まだメイは、その金額に見合うだけのことをされていないのだ。

 いや、そうじゃない。

 彼女はゆがみかけた考えを、頭を振って払った。

 勿論、何かされたいワケではないのだ。

 しかし、男と女が同じ部屋で夜に、心許ない格好で眠れば――その上、メイにとってあれだけ不利な条件が揃えば、本当に何をされてもおかしくなかったのである。

 なのに、彼は何もしなかったのだ。

 結果だけを見るなら、昨夜のカイトは紳士だった。

 まあ、あんなに怒鳴る紳士などいないだろうが。

 いっそ。

 何かされていたら、こんなに悩むことはなかったハズだ。

 ああ、やっぱり。

 そういう気持ちで終わりなのである。

 思えば、あのランパブに勤めていたって、結果は一緒だっただろう。

 いつかは、そういう道に墜ちていくしかなかったのだ。

 だから、きっと諦められた。

 悲しくても怖くても、諦めなければならないことだったのだ。

 でも。

 他のイヤな男の人に抱かれるくらいなら…。

 え?

 ぱちっと目を見開く。

 いま、自分が何かとんでもないことを考えたような気がしたのだ。

 え……私……。

 誰もいないのに、メイは慌ててうつむいた。

 いきなり、顔が真っ赤になったのが分かったのだ。

 耳までかぁっと熱い。

 ばか…。

 自分に対してそう呟きながら、彼女は慌てて左右に頭を振った。

 しかし、思考は止まらなかった。

 いきなり、彼女に向かって爆笑したカイトがよぎったのだ。

 水割りをつくるのを失敗したメイに大爆笑した男――それが、カイト。

 メイの初めての客だった。

 普通なら、新人の彼女は他の先輩について大人数のところに配置されるハズだったのに、間違えてその席に連れていかれたのである。
< 63 / 911 >

この作品をシェア

pagetop