冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ハルコが連れ出している可能性があったのだ。

 ありえる話だ。

 強引に、どこなりと連れ回されていることだって考えられ――

『いえ…今日は、会ってないわ』

 カイトは。

 凍り付いた。

 グレイの目をいっぱいに見開き、ケイタイを持ったまま、彼は一瞬何もかも分からなくなった。

 ん…だと?

 メイがいない。
 この家のどこにも見当たらない。

 外は真っ暗で、家にはカギもかかっていた。

 挙げ句、ハルコも行方を知らないと言う。

 わなっと、唇が震えた。

 この現実が信じられなかった。

『おかえりなさい…』

 あの笑顔が。

 こんなに簡単に、スイッチをひねって電気を消すかのように簡単に―― 消えてなくなってしまったのだ。

 消えて。

『カイト君? 聞いている?』

 彼の心が分かったのだろうか。

 まるで正気づかせるように、強い声がケイタイから投げつけられた。

 ハルコの声とは思えない動揺がある。
 あの、いつも『うふふ』と笑っている彼女とは思えなかった。

『もしかしたら…買い物か何かに出かけた時に、何かトラブルに…』

 ハルコは、その声のまま―― 示してはいけない選択肢の一つを、彼に見せてしまった。


 ガシャーン!!!!!


 カイトは、ケイタイを床に叩きつけた。

 弾け飛ぶプラスティックや金属の破片。

「クソッ!!!!」

 家を飛び出した。
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