冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 トラブルだと?

 世界で一番恐ろしい単語が駆けめぐる。

 事故、事件、誘拐。

 頭の中の血が、軒並み二酸化炭素漬けにされていく。

 バイクに飛び乗る。

 小回りのきかない車で、この夕方の渋滞をちんたら探すワケにもいかない。
 カイトは上着も着ずに、背広のままで街中を走り回った。

 途中、ヘルメットも投げ捨てる。

 こんなものをかぶっていたら、メイを見落としかねなかった。

 どこだ!

 どこだ、どこだ、どこだ!!

 いてくれ―― と、カイトは悲鳴のように思った。

 あの家を出ていったのではなく、ケガもしているワケでもなく、誰かに連れ去られたのでもなく、ただ、どこかにいて欲しかった。

 いや、欲しいなんて生やさしいものじゃない。

 彼女は、いなければならないのだ。

 カイトは、それだけをメイに望んだのだから。

 他には何もしなくていい。

 好きなものなら、欲しいものなら何だってくれてやりたかった。

 どんな手を使ってでもいいから、彼女に側にいさせたかった。

 それが、一番欲しかった。

 カイトは、彼女が一番欲しかったのだ。

 何だって、自分が望むものは手に入れてきた。そう思っていた。

 でも、その中に『人』はいなかったのだ。

 確かに、シュウやソウマやハルコは、いい相棒たちだ。
 彼にとっては、必要な人間たちだった。

 けれども―― それと、この欲しいは違う。

 色も音も匂いも、世界そのものが、何もかも違ったのだ。

 欲しかった。

 側においておくことが、その欲しいを満足させるものだと、カイトはずっと思っていた。

 それでいいのだと。

 最近の平穏な生活が。彼女との当たり前になりかけた生活が、そんな気持ちにさせかけていたのだ。

 しかし、いざふたを開けてみれば、自分が彼女の何も捕まえていなかった事実を叩きつけられる。

 何も知らない、まったくの他人なのだと。

 だから、たかが女一人さえも見つけられないのだ。
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