冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 い…ねぇ。

 張りつめていた糸が、ブツンと切れる。

 操り人形のように、そのままカイトは玄関口に座り込んだ。

 信じたくなかった。

 何もかも、いま起きているコトの一部始終どれも全部ひっくるめて―― 信じたくなかった。

 寒い風と冷え切った身体が、いまを現実だと突きつけてくれるというのに、カイトは、まだどこかで『おはようございます、起きて下さい』と、彼女に言われるのを待っているのだ。

 頭を抱える。

 こんな時に、コンピュータの知識の詰まっている頭など、何の役にも立たない。
 ただのガラクタ置き場だ。

 このままでは、胸の半分がひきちぎられて持っていかれる。

 カイトは、自分の髪を強く掴んで―― その痛みから逃れようとした。


 メイ…!


 ――プ…ルルル…プ…ル…


 いまにも途切れそうな音が鳴った。
 静寂しきった空間に、消えてしまいそうなかよわい鳴き声。

 カイトは、ゆっくりと顔を上げた。髪から手を離す。


 プ…ルルルル…ルルル…


 泣いていたのは、彼が叩きつけたケイタイだった。

 瀕死の重傷のまま、助けを求めている。


 助けを。


 カイトは―― それを掴んでいた。
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