冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 自分の住所も電話番号も知らない女性ではあったが、保護者らしき人の職場は知っていた。

 そこに何度か電話をかけたらしいが、ダメだったようだ。

 だから、あんな公衆電話の側にいたのだろう。

 聞けば、震える声で『鋼南電気の社長』と言った。

 社長?

 ピクリ。

 ジョウの耳が、過剰反応する。

 もしや、彼女はその社長の愛人か何かで!

 あーれー。

 クレヨン画の社長とやっちゃんの違いは、やっちゃんの方は顔に傷があって、社長の方が頭がバーコードで太っているところである。

 そんな画像を背負ったまま、ジョウは鋼南電気にかけた。

「あー…こちら、○○駅東派出所ですが、そちらに…」

「ああ、もう帰られたんですか…それでは、自宅の住所と電話番号をお聞かせ…え? 出来ない?」

 秘書か何かのようだ。

 相手は、彼が警察官だと分かったら、少し狼狽したような様子を見せる。

 何か刑事事件だと思ったのか。

 しかし、自宅の住所と電話番号は教えられないというのだ。

 おそらく、これでメイも困ったのだろう。

「どうにかして連絡がつかないですか? それじゃ、○○駅東派出所まで電話を、電話番号は…」

 チン。

 ジョウは受話器を置いた。

 振り返ると、メイはティッシュを何枚かぬいて顔をぬぐっている。

「さあ、これで大丈夫だ。なあに、いまは携帯電話があるんだ。すぐに連絡が来る」

 しかし、内心は不安だった。

 どういう関係かは分からないが、保護者の勤め先社から、自宅の電話番号なども教えてもらえないような立場なのである。

 このメイという女性は。

 本当に電話が来るかどうか――

 もしこなかったら。

 ジョウは、知り合いの女性を検索し始めた。

 彼女を、一晩泊めてくれそうな相手を当たっていたのだ。

 そして。

 電話はこなかった。


 キキーーーーッッッ!

 ガシャーー-ン!!


 代わりに、何か事故でもあったのかと思えるような大きな音が、すぐそこで起きた。
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