冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●139
 どうしよう…。

 もう、そればかりを考えていた。

 ついに、この巡査さんは電話をかけてしまったのだ。
 派出所という名前を出して―― カイトの勤める会社に。

 確かに。

 ここにいれば、いつかは連絡はつくだろう。

 あの秘書の人も、警察からの連絡をムゲにしないに違いない。

 しかし、その代わりに妙な噂が、会社で流れてしまうのではないだろうかと、それが心配になったのだ。

 警察からの電話である。

 普通は、穏やかな内容とは思いがたい。
 カイトが会社で面倒なことになったりはしないか。

 でも。

 もう、こんな気持ちはイヤだった。

 怒られてもいいから、早く帰りたかったのだ。

 そう思っている間に、時間だけが過ぎる。

 派出所の電話が鳴るたびに、メイはドキッとするのだけれども、どうやら違う電話ばかりのようだった。

 ちゃんと、カイトにまで伝言は伝わっているだろうか。

 それとも、もう呆れてしまって、彼女のことなど知ったことではないと捨て置かれてしまったのだろうか。

 不安が、メイの胸をズキズキと刺していく。

 もし…そうだったら。

 ナベどころではない。

 本当に、彼女は行くところがなくなってしまうのだ。

 どうし――

 どうしようと思いかけたメイの耳に、すぐ目の前で事故でも起きたのではないかと思えるような大きな音が響いた。

「何だ!?」

 巡査は、その大きな体躯からは想像つかないような素早い動きで、派出所の外に飛び出して行った。

 驚いて彼女も音の方を見たのだけれども、外の方が暗くて何が起きているのか分からない。

 誰かと、もめているような声があがった。
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