冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 何か事件だろうか、と思っていたら。


「うるせぇ! どけ!」


 あっ。

 開け放たれた派出所のドアの方から、物凄い声が叩きつけられる。

 聞き間違いか。

 そう思った。

 でも、違うと分かっていた。
 その声を、知っているのだ。

 決して忘れたりはしない。

 あの声は――

 ガタッ!

 メイは、慌てて立ち上がった。

 勢いがつきすぎて、彼女の座っていたパイプ椅子が後ろに倒れ、ガシャーンと音を立てる。

 でも、そんな音なんか聞いていなかった。

 飛び込んできた身体があったのである。
 背広も髪もぐちゃぐちゃで、ネクタイもない。

 ゼイゼイと荒い息で、汗だくになっているけれども。

 そのグレイの目が、派出所の中を怒ったような目で見回した直後―― 立ち上がったメイで止まった。

 わっ、と。

 身体の中に血が戻ってきた。

 いままで不安なばかりで、寂しいばかりで、どうしたらいいのか分からなかった身体が、ようやく生き返ったかのようにポンプを動かすのだ。

 身体中に震えが走る。

 カイトだ。

 夢でも幻でもなく、本当にカイトがそこに立っているのである。

 彼は―― 驚いた目で見ていた。

 本当に、そこにメイがいるのだと、信じられない顔だ。

 グレイの目を、いっぱいに見開いている。

 きっと派出所の名前を聞いて、彼女のことだと分かったのだろう。

 電話の代わりに、いきなり迎えに来てくれたのだ。
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