冬うらら~猫と起爆スイッチ~

12/15 Wed.-3

◆140
 ア然

 というのは、きっとこういうことを言うのだ。

 ジョウは、いま目の前で起きた事件を、うまく回想出来ずにいた。

 あまりにとんでもないことが起きたからだ。

 いま。

 あの男は、何をしたのか?

 派出所を見ると、白菜の破片が転がり出ている。

 ネギも力無く倒れ伏し、水がコンクリートの床ににじみ始めていた。
 トウフか何かの容器が、破れてこぼれだしているようだ。

 外の歩道には、男が倒したバイクの破片が落ちていて、確かにあの台風が去っていった証拠を残している。

 彼女の言葉が正しければ、あの男が鋼南電気の社長ということになる。

 もしかしたら、社長の息子かもしれない。

 とにかく、関係者である。

 物凄い音を立てて、その男は現れた。

 歩道に突っ込んできたブレーキと、そのままバイクを投げ出したのが、あの音の元凶だ。

 何事かと駆け寄ったジョウを、彼は押しのけた。

 まったくもって、穏便でない態度で。
 暴れそうなオーラが、がんがん出ている。

 危険を察知して、押さえつけようとしたが、相手の方がすばしっこかった。

 だっと駆け出したのだ。

 逃げられる、と思って後を追おうとしたら―― 何と、派出所の中に飛び込むではないか。

 まず、それで呆けてしまったのである。

 挙動不審の男が、派出所に駆け込む。

 何かの緊急な事件を通報にでも来たのだろうか、と我に返って派出所に走り戻ると。

 しかし、様子がおかしかった。

 メイという女性が、椅子から立ち上がっていたのである。

 驚いたような、でも、苦しいような表情で、いま入ってきた背広の男を見ていた。

 入り口近くで、そのバイク男も立ちつくしている。

 どうやら彼女の知り合いらしい。

 ジョウが連絡した、鋼南電気の社長関係者のようだ。

 だが、迷子の迎えというには余りに騒々しかった。
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