冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□15
 郊外の彼の家からしばらくは、車は穏やかに流れているが、計ったように特定時間になると、まるで亀のようなのろさになる。

 シュウが、会社までの道のりの全てに、タイムスケジュールを組んでいるに違いない、と思わせるくらい。

 運転は、シュウがしている。

 カイトも運転は出来るしキライではないのだが、会社に一緒に出勤する時は、相棒が運転することになっていた。

 トラブルが少ないからだ。

 カイトに運転させると、こういう渋滞になった途端、語尾が荒くなったり文句をつけたり、精神的に穏やかとは言い難い。

 しかし、シュウであれば、まったく平静のままなのだ。

 女子社員の間では、彼は『ロボット』と呼ばれている。

 それを耳にした時、カイトは笑ってしまった。

 余りにピッタリだったからだ。

 確かに、その通りだ。

 見ていれば、いつも決まった電柱のところでウィンカーを出す。

 ブレーキを踏む。

 運転の動作一つとっても、車線の変更も、なにもかも。

 しかし、シュウは今日はいつもと違う予定を入れた。

 ルームミラーで、後部座席のカイトを見たのだ。

 そうして、言った。

「どうして…ネクタイが解けてるんです?」

 声は冷静だが、さも不思議そうだ。

 カイトはムッとした。

 彼にとっては、イヤな予定外の出来事だったのである。

「……」

 何も答えず、ふいと横を向いた。

 窓越しに外を見ても、そこにはやはり車があるだけだ。

 隣の車の後部座席が見え、そこにいたキティちゃんと目があった。
 うつろな目だ。

 すぐにカイトは目をそらした。

 面白くなかった。

 シュウに、ネクタイの指摘を受けたせいだ。
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