冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 考えても考えても、どれにも答えがでない。

 分からん。

 ジョウは頭を左右に振った。

 あの二人の関係が、ついに解き明かされなかったのだ。

 出てくるクレヨン画の想像には、ロクなものがなかった。

 それは、きっと職業病である。

 まあ、相手の氏素性ははっきりしているのだ。

 鋼南電気の社長に問い合わせれば、あのメイという女性が何者で、どういう関係なのかが分かるだろう。

 そして、あの怒り狂っていた男が何者かも。

 さて。

 ジョウは床を見た。

 他の巡査が見回りから戻ってくる前に、この床の惨状を片づけなければならなかった。

 大きな身体を折り曲げるように座り込む。

 中身は、どう見てもナベの材料ばかりだ。

 トウフの容器も破れていたが、シラタキの容器もつぶれていた。

 だから、こんな水びたしになったのだ。

 太い指が濡れたのを、振って払う。

 食べ物を粗末にする奴は、ロクな奴がおらん。

 ジョウは、ため息をつきながら割れた白菜を拾い集めた。

 そのロクでもない男に連れ去られた女性のことを考えると、やはり本署の方に通報した方がいいだろうか、と悩む。

 けれども。

 うちに帰ったらナベだから―― そう言って泣いたメイが、彼の職務の邪魔をしてしまった。

 彼女が、本当に帰りたがっていたのが、その言葉の中にぎゅうっと濃縮されていたのだ。

 やれやれ。

 こんな妙な事件は、もうこりごりだった。
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