冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□141
 い―― た。

 派出所の中で、彼女は立ちつくしていた。

 飛び込んできたカイトを見ていた。

 泣いたばかりです、と言わんばかりの真っ赤な目だ。
 それが、カイトに助けを求めるかのように、一瞬もそらされなかった。

 感動の再会とか、そういう世界とは全然違う。

 まったく違う。

 カイトだって、呆然と彼女を見ていた。

 いた。

 ケイタイは、秘書からだった。

 途切れ途切れの声が、この派出所の名前を言ったのだ。

 他の情報は、何一つ耳に入らなかった。

 ただ、そんな頼りない瀕死のケイタイのぼやきを、カイトは信用してしまったのである。

 いた。

 生きていた。

 ケガもないようだ。

 でも、泣いていたのだ。

 彼女に出会うまでは、あんなに我を失ってしまったというのに、いざ目の前にしたら、自分が何をどう考えていたのか、そしてこれからどう考えればよいのか、カイトには分からなかった。

 ただ、2人とも動かないで、お互いを見る。

 先に動いたのはメイだった。

 ごめんなさい、と。

 そういうことを言ったのだ。

 カッと、頭に血が昇った。
 その言葉が引き金だった。

 ごめんなさい、だと!

 それを言われて、分かったのである。

 いまのカイトは、本当は彼女を抱きしめたいのだ。

 痛いくらいに抱きしめて、『バカヤロウ!』と怒鳴って、それでも抱きしめた指を解きたくないのである。

 もう二度と、こんな思いはしたくなかった。

 こんな、生きたままちぎられるような激痛なんか、二度と味わいたくなかったのである。
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