冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 それを!

 メイは、全然分かっていなかった。

 彼女の中では、迷惑をかけてごめんなさい、というトコロなのだ。

 迷惑とか、そうでないとかというレベルではない。

 そんな言葉ではないのだ。

 何一つ。

 通じてなどいない。

 彼女のことを探し回っている間、それをイヤというほど思い知らされた。

 何一つ理解していることなどないのだと。

 メイは。

 ただ、そこにいればよかった。

 そこにいろ、という願いがあった。

 しかし、それは何の契約書もない、裏付けが一つもない関係だったのである。
 お互いが、そうあり続けることを望むしかなかった。

 カイトはずっと望むだろう。
 メイがそこにいるということを。

 しかし、彼女の方はどうなのだ。

 ゾクッ。

 メイが見つかったというのに、彼の背筋には悪寒が走った。

 この事件は、予兆に過ぎないことが分かったのだ。

 彼女が望めば、いくらでも逃げることが出来る。

 もうカイトの側にいたくないと思ったら。
 大体、側にいたいと思っているのだろうか。

 またあの借金が、カイトの視界をシェイドする。

 恩、義理、義務。

 メイと自分をつなぐ、たよりなく見えない契約書。

 それを一番破りたいのはカイトだった。
 いつだって、破り捨てていた。

 けれども、彼女がそれを破ったら。

 もう。

 あの家には。

 イナイカモシレナイ。
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