冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
こんな現状には、もう耐えられなかった。
この事件が起きるまでは、きっと何もかもうまくいって大丈夫だと思っていたのに、彼女との間の無記入の契約書が、カイトを苦しめた。
足に火をつけられる。
家に帰り着くや、カイトは彼女の腕を掴んで引っ張って行った。
もうバイクなど知ったことではない。また後ろで倒れる音がしたが、耳に入ってもいなかった。
「あっ…」
転びそうになりながらも、彼女はその力に引っ張られていく。
カイトの頭の中には、一つの単語が渦巻いていた。
メイを失ってしまう、と。
それは、今日ではなかった。
しかし―― 疑惑が明日に延びたに過ぎないのだ。
明日になったら、『今日こそは失ってしまうかもしれない』と、カイトは思う。
明日は大丈夫でも、明後日にまた同じことを。
これから毎日、きっとずっとそれを繰り返すだろう。
ついに、ゴーストにとりつかれてしまったのだ。
明日。
唇が震えた。
うなじの毛が総毛立つ。
なかったのだ。
カイトのビジョンでは、メイと自分の明日は真っ暗だったのである。
また、身体がちぎられた。
彼女がすぐ後ろにいるというのに、いま確かにこの手を掴んでいるというのに―― 離した瞬間に、全てが消えてしまいそうだった。
離したら。
階段を上る。
玄関のドアも開けっ放しだ。
離してしまったら。
じゃあ。
離さなければ。
離れられなくなれば。
違う。
離したくないのだ。
こんな現状には、もう耐えられなかった。
この事件が起きるまでは、きっと何もかもうまくいって大丈夫だと思っていたのに、彼女との間の無記入の契約書が、カイトを苦しめた。
足に火をつけられる。
家に帰り着くや、カイトは彼女の腕を掴んで引っ張って行った。
もうバイクなど知ったことではない。また後ろで倒れる音がしたが、耳に入ってもいなかった。
「あっ…」
転びそうになりながらも、彼女はその力に引っ張られていく。
カイトの頭の中には、一つの単語が渦巻いていた。
メイを失ってしまう、と。
それは、今日ではなかった。
しかし―― 疑惑が明日に延びたに過ぎないのだ。
明日になったら、『今日こそは失ってしまうかもしれない』と、カイトは思う。
明日は大丈夫でも、明後日にまた同じことを。
これから毎日、きっとずっとそれを繰り返すだろう。
ついに、ゴーストにとりつかれてしまったのだ。
明日。
唇が震えた。
うなじの毛が総毛立つ。
なかったのだ。
カイトのビジョンでは、メイと自分の明日は真っ暗だったのである。
また、身体がちぎられた。
彼女がすぐ後ろにいるというのに、いま確かにこの手を掴んでいるというのに―― 離した瞬間に、全てが消えてしまいそうだった。
離したら。
階段を上る。
玄関のドアも開けっ放しだ。
離してしまったら。
じゃあ。
離さなければ。
離れられなくなれば。
違う。
離したくないのだ。