冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 目が、開く。

 濡れた睫毛が上がって、茶色の目が宙をさまよった。

 その目に見つかってしまう。この空間では、逃げ場がなかった。

 そして、聞かれた。

『どうして?』

 声ではない。

 彼女の目が、呆然とそれをカイトに聞くのだ。

 オレが―― 泣かせた。

 オレがこいつを、卑怯な、このキタネー手で。

 耐えられなかった。

 これから、間違いなく自分は、彼女に嫌悪されるのだ。

 いや、憎悪されるかもしれない。

 その瞳の色が変わっていくのを、こんなところで見ていられなかった。

 有罪確定の被告席に、座ってなどいられなかったのだ。

 あとちょっとでもいようものなら、あの裁判官の木槌が打ち鳴らされてしまうのである。

 バンバン、と。

『判決! 被告の行為は卑劣きわまりなく…』


 カイトは。


 逃げた。
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