冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 逃げた。

 バイクに飛び乗って、とにかく逃げた。

 どこでもよかった。

 彼女から離れたかった。

 あんな判決の全文を、聞いていられるハズがない。

 アクセルを思い切り開けて、カイトは橋をいくつも渡った。

 その橋の数だけ、彼女とのいままでの思い出を奪われていくような気がした。

 全部川に放り捨てられていく。

 夜の冷たい風が、無防備なカイトを刃物のように突き刺した。

 そんなものどうでもよかった。

 指先の感覚などに構ってもいなかった。

 メイは、もっと痛くてつらい思いをしたのだ。

 いや、させられたのだ。

 彼自身に。

 身体の中からわき上がる自己憎悪。

 それが、カァっと炎になって、彼の内側にヤケドを負わせる。

 しかし、やめなかった。

 ますます荒れ狂わせて、どこもかしこも焼き尽くしていく。

 何が、大事にしたい、だ!

 その結果が、あれか!

 絶対に許されるハズがない。

 自分が男であることが、いまほど憎いことはなかった。

 男だからこそ、力があったからこそ、あんな真似をしてしまったのである。

 これで、彼女は―― 出ていくのだ。

 自分の意思で、はっきりとカイトに『さようなら』を言うのである。

 今度は、『いってらっしゃい』のような、一時的な生半可な別れでも何でもない。完全な決別だ。
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