冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 黒い髪が。

 赤い顔が。

 茶色の目が。

 細い指が、最後にきゅっと――彼の喉元の側まで迫ってきた。

 走り去る背中。

 シャツの裾。

 ふくらはぎ。

 全部まとめて編み込んだら、それが『クソッ』なのである。

 それを口にしてしまった。

 カイトは、また横を見た。

 同じキティちゃんが、まだいるのだ。
 またうつろなあの黒い目を見てしまう。

 シュウが。

 カイトの中を伺い知るような目で、ミラーを見ているような気がした。

 そういう視線を感じる。

 被害妄想かもしれないが、それを思うとイライラしてきた。

「ネクタイを結ぶ時間より大切なこととは…今朝のあの女性ですか?」

 そのイライラが、針でつつかれた。

「てめーは、黙って運転しろ!」

 窓が閉まっていても、きっと外まで聞こえただろう音量で、カイトは怒鳴った。

 間髪入れず、である。

 シュウは、私生活にほとんど口を挟まない。

 挟むとしたら、それが会社や仕事にとって障りそうな時だけである。

 としたら。

 彼女――メイの存在が、それに該当するとでも思っているのか。

 だとしたら、とんでもないカンチガイである。

 カンチガイに決まってんだろ!

 内心でそう怒鳴ってみても、全然苛立ちは収まらなかった。

 八つ当たりに、脚を持ち上げてシュウの座っている運転席をけっ飛ばした。

 裏側に彼の足形がつく。

「ああ……何をするんです」

 それは、シュウにとっても予定外のことだったのだろう。

 車がちょうど止まっていた時だったせいで、彼は振り返って、カイトを――ではなく、蹴られた座席を確認したのだ。

 フン、知るか。

 カイトは、またぷいと横を見た。

 キティちゃんは、いなかった。

 隣の車が変わっている。

 前を見ると、渋滞の列が進もうとしていたのだ。
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