冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 メイは朝食を作り、カイトの部屋に向かった。

 そっとドアを開ける。

 冬の朝の、薄暗い部屋。

 一瞬、胸がどきっとする。

 昨日、カイトの部屋を掃除した時、ベッドはきちんと整えておいた。
 その形が変わっているのが、シルエットではっきりと分かったのだ。

 帰って来たのだ。

 安堵した。

 これで元通りに戻れる、と。

 きっと、昨日はまだ心の整理がついていなかったのだ。

 落ちついたから、帰ってきてくれたのだろう。

 深呼吸して、メイは心を落ちつかせた。
 いつも通り、いつも通り、と呪文のように繰り返して近付いていく。

 そして、いつものように覗き込んだ。

 カイトはいなかった。

 ベッドはもぬけの空だったのだ。

 メイは驚いて、部屋の電気をつけに入口に戻る。

 リモコンもあるのだが、この暗さだとどこにあるのか分からなかった。

 ぱっと明るくなる。

 彼女の確認通り、ベッドは乱れてはいたが、誰も眠っていなかった。

 毛布がめくれあがるように山になっていて―― それを、カイトのシルエットだと勘違いしてしまったのである。

 そして、ベッドの周りに散乱しているビールの缶。
 つぶれていたり、倒れて床にこぼれているのもある。

 押し入れが開いていて、そこにビールのケースがあるのが分かった。

 まさか!

 酔っぱらって、どこかで倒れているのでは。

 メイは、バスルームを開けて探したけれども、彼の姿はどこにもなかった。

 慌てて部屋を出て、階段を降りる。

 玄関を飛び出した。

 真っ白い息が、蒸気機関車のように視界を掠める。

 ガレージに、カイトの乗る車はなかった。
 もう一台と、傷だらけのバイクがあるだけ。

 出かけてしまったのだ。
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