冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●147

 結局―― ハルコには、ちょっとしたケンカがあった、くらいに思ったようだ。

 『まったく、カイト君たら…』と、横を向いてため息をついたので。

「違うんです、そうじゃなくて…」

 メイは、それを必死に否定した。

 あの事件を知られても困るが、誤解されても困るのだ。

「何か気に入らなくて、カンシャクを起こしたんでしょう? この手つかずの朝食を見れば分かるわ。はぁ…おかしいわねぇ。こんなことをするなんて思えないんだけど…」

 やっぱり、大誤解である。

 早く出て行ったというのは本当のことなので、彼女は何度も繰り返して「違う」ということを主張した。

 最後には。

「そぅ? それならいいのだけれど…」

 ようやく、折れてくれた。

 本当に納得したかどうかはナゾだった。

 察しのいい彼女のことだ。
 やっぱり、ケンカという誤解は解けていないような気がする。

 大体。

 最初から、ケンカにもならないのだ。

 カイトと自分では。

 ケンカというのは、お互いの気持ちをぶつけあって、食い違って怒り合うことの総称を言う。

 しかし、そのどの辺りとも、今回の件は一致していないのだ。

 夕食の支度を終えて、ダイニングで待つ。

 いつもなら、もうとっくに帰り着いているハズの時間だった。今日は、鶏を揚げた。

 お昼から下ごしらえをしておいた。

 帰ってこないかもしれない、なんていう考えは捨てて、メイはいつも通りに夕食を用意して彼を待ったのである。

 しかし、帰ってこなかった。

 23時。

 昨日は―― ここで、諦めた。

 しかし、今日こそは待つと心に決めていた。
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