冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ハッ、と顔を上げる。

 自分の聞き違いじゃないかと疑ったのだ。
 そして、耳をよく澄ました。

 車の音だ。

 間違いない。

 それが、敷地内に入ってきたのだ。

 1時半。

 こんな時間に、客が訪ねてくるハズもなかった。

 カイトだ。

 もう、いてもたってもいられなくなって、メイは席を立った。

 そうして、ダイニングを飛び出す。

 玄関のドアの前まで駆けつけるのだ。

 いつも通り。いつも通り。

 おかえりなさい、から始まるのだ。

 今更、緊張して妙なシミュレーションを始める。

 余計に自然に振る舞えないような気がして、何度も何度も深呼吸をしてしまった。

 胸がドキドキしている。

 やっと―― 会えるのだ。

 カイトに。

 ガチャッ。

 ドアが、開く。

「おかえりな…」

 いつも通りのハズだったのに。

 メイは、最後までそれを言うことができなかった。

 帰ってきたのは、間違いなくカイトだ。

 あの時と、同じ背広のまま。ヨレヨレのシワだらけで、彼が着替えさえしていないのが分かった。

 道理で今日の掃除の時に、洗濯物がなかったはずである。

 いや、そんなことなんかどうでもいい。

 カイトの目が。

 メイを、驚愕の表情で見ていたのである。

 まるで、化け物にでも会ったかのように―― それくらいの恐怖と驚きがあった。

 彼女は竦んでしまう。

 そんな目で見られる日が来るなんて、思ってもいなかったのだ。
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