冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●
いままで、一度もなかった目。
恐怖の色。
ガシャーン、と何かが砕けた。
メイの耳の裏側で。意識の裏の方で、不透明なグラスが砕け散ったのだ。
中に入っていたのは、いままでの日々。
幸せだと思っていた日々が、そのグレイの目を見た瞬間に、床を汚したのだ。
違う。
慌ててメイは、そのこぼれた水を拾おうとした。
こんなハズはない、と。
それさえかき集めれば、きっと元に戻るハズだ。
たとえガラスでケガをしても、中身さえ無事なら。
そんな彼女に、次の衝撃が襲ってきた。
カイトは、恐怖の後―― ベッドの上と同じ顔をしたのだ。
迫り上がってくるような苦悶の色だ。
顔が歪んで、それを彼女から隠すようにばっと横に逸らした。
そして。
メイの横を無言で行き過ぎたのだ。
離れていく。
開いたままの玄関の扉の前で、彼女はそれが分かった。
どんどん遠くに、カイトが行ってしまうのだ。
足音も、気配も、何もかもが彼女を近づけまいとする。
足早に上がっていく階段。
メイは、振り返った。
もう、姿は見えない。
イヤ!
未処理箱がひっくり返される。
山ほどの書類袋が、メイの目の前にどさどさと落ちてきた。
この書類を、整理しろというのだ。
こんなにたくさんで、複雑で、そして爆弾まみれの書類を、一つ一つ袋から出して吹き飛ばされろというのである。
彼を―― 失え、というのだ。
メイがここにいるのを、カイトは望んでいない。
それは、あの表情を見た瞬間に分かってしまった。
もう、顔も見たくないのだ。
側にいられるのもイヤなのだ。
あんな苦しそうな顔を、自分がさせているのである。
この家にいるという理由だけで。
二階のドアが締まる。
それは、拒絶の音だった。
もう。
ここには、いられない。
いままで、一度もなかった目。
恐怖の色。
ガシャーン、と何かが砕けた。
メイの耳の裏側で。意識の裏の方で、不透明なグラスが砕け散ったのだ。
中に入っていたのは、いままでの日々。
幸せだと思っていた日々が、そのグレイの目を見た瞬間に、床を汚したのだ。
違う。
慌ててメイは、そのこぼれた水を拾おうとした。
こんなハズはない、と。
それさえかき集めれば、きっと元に戻るハズだ。
たとえガラスでケガをしても、中身さえ無事なら。
そんな彼女に、次の衝撃が襲ってきた。
カイトは、恐怖の後―― ベッドの上と同じ顔をしたのだ。
迫り上がってくるような苦悶の色だ。
顔が歪んで、それを彼女から隠すようにばっと横に逸らした。
そして。
メイの横を無言で行き過ぎたのだ。
離れていく。
開いたままの玄関の扉の前で、彼女はそれが分かった。
どんどん遠くに、カイトが行ってしまうのだ。
足音も、気配も、何もかもが彼女を近づけまいとする。
足早に上がっていく階段。
メイは、振り返った。
もう、姿は見えない。
イヤ!
未処理箱がひっくり返される。
山ほどの書類袋が、メイの目の前にどさどさと落ちてきた。
この書類を、整理しろというのだ。
こんなにたくさんで、複雑で、そして爆弾まみれの書類を、一つ一つ袋から出して吹き飛ばされろというのである。
彼を―― 失え、というのだ。
メイがここにいるのを、カイトは望んでいない。
それは、あの表情を見た瞬間に分かってしまった。
もう、顔も見たくないのだ。
側にいられるのもイヤなのだ。
あんな苦しそうな顔を、自分がさせているのである。
この家にいるという理由だけで。
二階のドアが締まる。
それは、拒絶の音だった。
もう。
ここには、いられない。