冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あと少しで、缶が空っぽになる―― そんな時。

 ノックがあった。

 ビクッ。

 カイトは、心臓を握りつぶされそうな怖さを覚える。

 まさか。
 いや。
 シュウだ。
 きっと、あいつだ。

 視線をドアに釘づけたまま、意識の中で希望を渦巻かせた。

「メイです…失礼します」

 なのに。

 そんな希望はうち砕かれた。

 ドアが開く。

 彼女が入ってくるのだ。

 部屋の中では、彼には逃げ場はない。
 メイと向かい合わなければならなかった。

 よろけて後ろ手をつく。

 ちょうど、ノートパソコンを置いてある机があったので、転倒することはなかった。

 その家具だけが、いまカイトの味方なのだ。

 メイが入ってきた。

 パジャマではない。

 ということは、寝ていなかったのだ。

 寝ていなかったということは―― カイトを待っていたのである。

 わざわざ部屋を訪ねてくるくらい。

 手にはトレイを持っていない。
 お茶をしにきたワケではなかった。

 ドクンドクン。

 心臓がいやな鼓動を立てる。

 喉のすぐ入り口のところにまで上がってきて、周囲の組織を押しのけるように動くのだ。

 ビールを飲んだばかりだというのに、口の中がカラカラになっている。

 しかし、手に握っているだけの缶を持ち上げることもできなかった。

 ぺこり。

 彼女は頭を下げた。

「明日…この家を、おいとまさせてもらってもよろしいでしょうか?」

 青ざめて震える唇で、彼女はそう言った。

 ひどく辛そうな表情で。
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