冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、目を見開いた。

 やっぱり、きたのだ。

 心臓が、途端に騒ぎをやめた。

 それどころか、止まってしまったんではないかと思うくらいに、静かに沈黙する。

 他の音も、全部消えた。

 シンと静まり返った中、カイトは言葉も―― 心も失った。

 沈黙を破ったのは、彼の方だった。

 分かっていたことである。

 これ以上、メイが自分と一緒にいたくないと思うのは、当たり前のことなのだ。
 それだけのことを、彼がしてしまったのだから。

「…分かった」

 小さな声だった。

 一気に疲労感が襲ってくる。

 自分の年齢が分からなくなるくらいの脱力感だ。

 老人にでもなった気がした。

 よろけずに済んだのは、後ろの机のおかげ。

 メイが、一瞬驚いたような顔をした。

 しかし、すぐに泣きそうな顔になる。

 見ていられなくて視線を逸らした。

 その目に、責められている気がしてしょうがなかったのだ。

「あの…お金は…!」

 彼女は、それだけが気がかりであるかのように、声を振り絞って何かを伝えようとする。

 その借用書は、何があっても消えなかったようだ。

「金の話はすんな!」

 最後の気力で、カイトは怒鳴った。

 虚しく部屋に響く。

「もう…いい」

 頭を小さく左右に振る。

 もう、メイはそんなものに縛られなくてもいいのだ。

 自由なのだ。

 もう借金のせいで、こんな怖い思いもしなくていい。

 それで、いいのだ。
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