冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 これも置いていこうかと思った。

 しかし、彼の家に女物の服があってもしょうがないことに気づく。

 許可を取りに行こうかと思って、やめた。

 さっきの様子のカイトの顔を、もう一度見たくはなかったのだ。

 あんな彼を見ていると、自分もつらいのである。

 メイは、バッグを持っていなかった。

 ハルコが服を買ってきてくれた時の紙袋や、買い物の時にもらった紙袋はきちんと取ってあるので、それに服や日用品を詰める。

 それでも、全部は入りきらなかった。

 入りきれるはずがない。

 ここでの3週間の日々が、そんな紙袋に収まるはずがないのだ。

 ぼたっ。

 ぼた、ぼたっ。

 彼女は、慌てて目をぬぐった。

 ぬぐっても、ぬぐっても溢れ出して来る。

 全部詰めて持って行きたかった。

 でも、全てというのなら、カイトもこの紙袋に詰めなければならない。

 そうしなければ、決して全部にはならないのだ。

 彼は―― 紙袋には入らない。


 置いていかなければならなかった。
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