冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 夜が明ける。

 整理は済んでしまったが、彼女は一睡も出来なかった。

 夜明け前に、誰かが出ていった音がする。

 カイトに違いない。

 また会社に行ってしまったのだろうか。

 見送られてもつらいので、これでよかったのだ。

 メイは、ハルコに手紙を書いていた。

 出ていった後、この家のことをしてくれるのは、彼女しかいないのである。

 それからお礼も書かなければならなかった。

 ごめんなさい、も。

 手紙と言っても、封筒も便箋もないので、服を開ける時に一緒に挟んであった薄紙を使う。

 ボールペンは、この家のあちこちに落ちていた。

 きっと、カイトだろう。

 シュウなら、自分の持っているボールペンはすべてきちんと管理しているだろうから。

 彼が一度は使ったボールペン―― 慌てて、彼女はそれを自覚しないようにした。

 でなければ、せっかく止めた涙がよみがえってくるのである。

 そうして、できるだけ冷静な言葉で書き連ねた。

 これは、調理場に置いておけばいいだろう。

 そう遠からず、ハルコがきて見つけてくれるに違いなかった。

 手紙だけを持って、メイは部屋を出た。

 廊下を歩き、階段を下りる。

 調理場に行き、きょろきょろした後、食器棚のティーセットのところに置く。

 ここならきっと、ハルコでないと見ないのではないかと思ったのだ。

 そうしたら。

 あ。

 違うものが目にとまった。

 マグカップだ。

 カイトのカップである。

 正確に言うと、カイトがもらったのを、知らずに彼女が使っていた、というカップだ。

 一緒に、お茶を飲んだ大事なカップ。
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