冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「構いませんが…どのような用件でしょうか」

 シュウは、耳のアンテナを張り巡らしながら答えを待った。

『……あいつが、出ていく』

 長い長い、それはもう電波が途切れたのではないかと思うくらい長い沈黙の後、カイトはそう言った。

 押し殺したような声だ。

 あいつ?

 あいつという名前の知り合いは、シュウにはいなかった。

 カイトは、よくこういう風に他人を名前以外の呼称で呼ぶ。

 答えはすぐに出た。

 イレギュラーのことである。

 カイトをイレギュラーさせ続けた、あの女性がこの家を出ていくというのだ。

 どういった経緯があったかは知らないが、そういうことらしい。

「それと、私がこの家にいることにど、のようなつながりがあるのでしょうか?」

 そこは分かったが、まだ不透明な部分を、シュウは聞き出さなければならなかった。

 いつもの会話から比べたら、用件を把握しおえるまで5倍は時間がかかっただろう。

 それくらい、カイトは黙り込む時間が長かった。

「分かりました…では、そのように」

 電話を切った後、そして思ったのだ。

 これで元に戻る、と。
< 693 / 911 >

この作品をシェア

pagetop