冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「これを、カイトから預かってます」

 シュウは、書類を入れる袋を差し出した。

 中身が何かは、ちゃんと知っている。

「え…」

 メイという女性は、その袋を受け取って開けると、戸惑った目で彼を見た。驚いているようだ。

 中身は── 300万。

 カイトが当座持っていた現金だ。

 それを、朝、仕事に出る前にシュウに預けたのである。

 ちなみにシュウ自身は、現金をあまり持ち歩かない。
 ほとんどがカード決済だ。

「とりあえずそれだけあれば、しばらくの生活には困らないでしょう。もしも、不足のことがあれば、私の方まで連絡をしてもらえれば用立てします」

 携帯番号のついている名刺を彼女に渡そうとした。

 これも、カイトに指示されたことだった。

 でなければ、仕事に差し障りのある電話を、シュウが受けたいはずがなかった。

 しかし、メイはその名刺を受け取ろうとしなかった。

「これ、受け取れません!」

 その上、現金まで突っ返そうとするのである。

 勢いよく胸に押し返されて、彼は咳き込んでしまいそうになった。

 とりあえず、落ちないように手と胸でそれを押さえる。

 シュウは、ため息をついた。

 後から電話をかけてこないのは構わないが、これは受け取ってもらわなければならなかったのだ。

 それだけはきつく、カイトから厳命を受けているのである。

 受け取った後、彼女が現金を捨てようが、どう使おうがそれは指示されたことではなかった。

 メイは、必死な顔でもう一度差し出されるのを拒んでいる。

 どうにも、絶対受け取らないというオーラが感じられた。

 しょうがない。

 シュウは、副社長の顔になった。

 これを交渉だと仮定して、彼女に現金を受け取らせようと思ったのだ。

 その方が、彼としてもやりやすかった。
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