冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●151
 どういうことって。

 メイは、彼の問いに戸惑った。

 うまく発言の主旨が、シュウには伝わらなかったようである。

 長い言葉だったし、落ち着かない口調だったので、聞き取れなかったのかもしれない。

 この男は、彼女がどこから来たか知っていた。

 一瞬、カイトがしゃべったのかと思って青ざめたが、そうではなかった。彼自身が、調査したのだ。

 ひた隠しにしてきたその事実を知られていたというのは、胸が冷たくなった。

 けれど、その代償としてさっきの伝言をお願いすることが出来たのだ。

 カイトの恩返し。

 昔、借金で誰かに助けられて、その恩返しとしてメイを助けたのだと。

 そう彼は自分に言った。

 だから、彼女はてっきり自分以外にも、何人もそういう風に助けてきたのだろうと思っていたのだ。

 もしかしたら、これまで助けたのは、メイ一人だったのだろうか。

 彼女が、一番最初の救出者だったのか。

 そう思ったメイは、言葉を選びながら、おそるおそるその辺りをシュウに説明したのだ。

 すると、ますます彼の表情が怪訝に曇る。

「私の知る限り、カイトが大きな借金をしたことはありませんし、あなたのように誰かをこの家に連れてきたこともありません」

 はっきり。

 自分の記憶には疑いがないのか。

 シュウは、まったく反論の余地もない正確な言葉と発音で、「ない」というのである。

 えええええ?

 メイは戸惑った。

 話が違うのだ。

 もしかしたら、彼には隠していたのかもしれない。

 親切に思われるのは、どうにも苦手そうな人なので、黙っていたのか。

 いろんな疑惑が渦巻いて、メイは動けないでいた。

 ソロバンで何度も弾くのだけれども、すぐに打ち間違えて、ご破算でもう一度という状態だ。
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