冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「え……あ……しかし」

 徹底した拒否に、驚くウェイター。

「……聞こえなかったんなら、もう一回言ってやるぜ?」

 もうちょっとつつこうものなら、また怒鳴るぞ。

 そういう気配で言うと、慌ててウェイターは逃げて行った。

 クソッ。

 本当に自分のリズムを作れないまま、カイトは固まったままの彼女を見る。

 どうしたらいいのか、全然分からなかったし、自分が何をしたいのかも分からなかった。

 彼は。

 表面張力で震えるグラスをひっつかんだ。

 ほんのわずかの衝撃でも、溢れそうになっているそれだ。
 乱暴に持つまでもなく、簡単に彼の膝を汚した。

「あっ……!」

 それに、彼女が驚きの声をあげる。

 膝やシャツの胸が、こぼれるウィスキーで汚れるのも頓着せずに、カイトはそのグラスをあおったのである。

 勢い余って、顎も、喉も汚れた。

 でも気にせずに、彼はグラスの中を全部飲み干したのだ。

 ガン、とテーブルにそれを戻し、乱暴に口を拭った。

 身体中が、カーッとなったのが分かった。

 酒には弱い方ではない。

 しかし、ああいうムチャな飲み方もしないタイプなのだ、彼は。

 ただ、この空気にどうにも耐えられなかったのである。

 全身にアルコールが駆け抜ける。

 熱い。

 カイトはそう思った。

 自分のグレイの目が、もっと濃くなったような気がする。

 そんな気持ちのまま、もう一度顎を拭いながら、彼女を見た。

 薄皮が破れる音が、またシャツの下から聞こえた。

「あの……オシボリ……」

 取ってきます。
 
 汚れたままのカイトの惨状を思い出したらしく、彼女は立ち上がろうとした。

 その手首を掴んでいた。
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